司法書士の基礎知識
司法書士とは法律に関する専門知識に基づき、登記や供託業務などの法律上の手続きを専門に行う国家資格です。相続においても様々なケースの法律上の手続きを行うことができます。
司法書士とは
司法書士は私たちの権利と財産を守るために多岐にわたる業務を担っています。主に不動産や会社の登記申請、裁判所や法務局への書類提出などを行い、成年後見制度や相続、信託といった高齢化社会に伴う重要な領域でも活動しています。
「市民の身近な法律家」として、社会に貢献する役割を果たしています。また、法務大臣の認定を受けた司法書士は、簡易裁判所でクライアントを代理して訴訟手続きも行うことができます。
司法書士と相続専門家の業務内容
相続に関して専門家に相談する際、どの専門家に依頼するかはその業務内容によります。相続税の申告や調査が必要な場合は税理士、遺言書の作成や遺産分割協議書の作成が必要な場合は行政書士、不動産の名義変更(相続登記)が必要な場合は司法書士が適しています。一方、相続に関する争いがある場合は、訴訟や裁判を扱う弁護士に相談しましょう。
専門家 | 業務内容 |
---|---|
税理士 | 相続税の申告と調査。相続税申告は発生頻度が低く、頻繁に携わるケースは少ない。 |
行政書士 | 遺言書作成サポート、遺産分割協議書の作成。相続登記、相続税申告には携われない。 |
司法書士 | 相続不動産の名義変更(相続登記)。遺言書作成サポートや後見制度に関する業務も。 |
弁護士 | 訴訟、裁判など争いごとに関する業務。相続における争い事が発生した場合に適切。 |
それぞれの専門家はその分野に特化しており、相続手続きにおける適切なアドバイスやサポートを提供できます。
相続の基礎知識
相続とは、亡くなった人(被相続人)の財産や義務を、遺族や指定された相続人が引き継ぐことです。法律上、このプロセスを「法定相続」と呼び、誰がどれだけの遺産を受け取るかの割合を「法定相続分」として民法で規定しています。
遺産とは
遺産は亡くなった人が残した財産全てを指し、これには金銭や不動産、貴金属などの価値あるものから借金や未払いの税金などのマイナスの財産も含まれます。相続はその人が亡くなった時点で始まり、相続人は相続放棄を選択しない限り、財産だけでなく負債も含めて全てを引き継ぐことになります(単純承認)。相続が開始する日は被相続人の死亡日であり戸籍謄本で確認できます。また、7年間生死不明で失踪宣告を受けた場合も相続開始の対象になります。
プラスの財産 | マイナスの財産 |
・現金、預貯金、外国通貨 ・有価証券(株式、投資信託、公社債等) ・動産(車、家具、貴金属、骨とう品、船舶、飛行機等) ・不動産(土地、建物、山林等) ・知的財産権(特許権、著作権等) ・債権(売掛金、貸付金、立替金等) ・借家権、借地権 ・仮想通貨 ・慰謝料請求権、損害賠償請求権 ・電話加入権等 | ・借金 ・買掛金 ・未払金(経費、税金、家賃、慰謝料、損害賠償等) ・保証債務 ・預り金(敷金、保証金等) |
相続人の範囲
相続人の範囲は民法で定められています。
被相続人の配偶者
- 常に相続人となる。
配偶者以外の相続人の順位
第1順位:被相続人の子どもやその孫、ひ孫などの直系卑属。
第2順位:被相続人の父母や祖父母などの直系尊属。
第3順位:被相続人の兄弟姉妹及びその子供。
特記事項
- 相続人には法律上の関係が必要で、事実婚のパートナーは含まれない。
- 相続放棄をした人は、相続人ではなかったものと扱われる。
相続人になれない例
- 義理の子や配偶者の連れ子、特別養子縁組をした子。
- 義理の父母や義兄弟姉妹。
- どれだけ親密な関係であっても、法律上の相続人には該当しない。
法定相続分
法定相続分は民法で定められた遺産の分け方です。基本的な割合は以下の通りです。
- 配偶者のみが相続人の場合:
- 配偶者が遺産の全て(100%)を相続します。
- 配偶者と子どもが相続人の場合:
- 配偶者が遺産の半分(1/2)、子どもが残りの半分(1/2)を相続します。子どもが複数いる場合、彼らで1/2を等分します。
- 配偶者と直系尊属(親や祖父母)が相続人の場合:
- 配偶者が遺産の2/3を、直系尊属が1/3を相続します。直系尊属が複数いる場合、1/3を等分します。
- 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合:
- 配偶者が遺産の3/4を、兄弟姉妹が1/4を相続します。兄弟姉妹が複数いる場合、1/4を等分します。
注意点
- 遺産は原則として均等に分けられます。たとえば、配偶者と子ども3人が相続人の場合、配偶者は1/2、各子どもは1/6ずつ相続します。
相続|司法書士にできること
司法書士は相続に関する様々な手続きを行うことができます。
相続人調査
相続が起こった際、最初にすべきことは相続人を調査することです。これは誰が法的に相続人となるかを明らかにするために行います。
相続人調査を行うに、被相続人の一生にわたる戸籍謄本を収集し家族関係の変遷を調べます。戸籍は時間の経過と共に更新されるため、歴史的な家族関係を理解するには被相続人の出生から死亡に至るまでの全ての戸籍謄本が必要になります。
戸籍謄本は各市町村で管理されており該当する自治体でのみ取得可能です。取得方法には窓口での直接受け取りと郵送による受け取りがありますが、複数の自治体から戸籍謄本を集める作業は手間がかかります。このような場合、司法書士に依頼すると戸籍謄本の取得手続きを代行してもらえ、相続人の確定をスムーズに行うことができます。
相続方法の選択・相続財産調査
相続が始まると相続人は以下の3つの選択肢から相続の方法を決める必要があります。
- 単純承認: 被相続人のすべての資産と負債を受け継ぎます。
- 限定承認: 被相続人の負債を、相続によって得た財産の範囲内でのみ受け継ぎます。
- 相続放棄: 被相続人の権利や義務を一切受け継がない選択です。
相続方法を選ぶ前に被相続人の資産と負債の全容を明らかにするために相続財産の調査が必要です。「限定承認」と「相続放棄」を選択する場合は、相続の開始を知ってから3カ月以内に家庭裁判所に申述することが求められます。3カ月以内に申述しなかった場合は自動的に「単純承認」したとみなされます。
相続財産調査は時間がかかる作業であり司法書士に依頼することで手続きをスムーズに進めることができます。司法書士は相続放棄申述書の作成、法定相続情報証明制度の活用、遺産分割協議書の作成、不動産の登記、預貯金の払い戻しなど、相続に関する多様な手続きをサポートしてくれます。
不動産の相続登記に関する手続き
被相続人が土地や建物を所有していた場合、相続に際して相続登記を行います。
所有権など権利に関する登記については理人として申請を行えるのは司法書士と弁護士だけと定められています。特に司法書士は登記の専門家です。弁護士も登記は司法書士に依頼することが多いため、不動産の相続登記に関する手続きは司法書士にお願いすることがおすすめです。
遺言に関する手続き
司法書士は遺言に関する手続きも行います。遺言とは被相続人が自己の財産を譲る人や処分方法などについての意思を書面に残したものです。
遺言を残す事で遺産分割協議を行う必要がなくなります。遺言書がない場合には遺産分割協議を相続人全員で行うことになります。協議で揉めてしまうと調停や裁判に発展してしまい、家族関係が崩壊してしますことがあります。そのような事を防ぐためにも遺言を残すことは非常に有効な手段です。また、自分の意思で財産の分配をある程度決めることも可能です。特に法定相続分以外に財産を残したい場合は遺言を書く事をおすすめします。
遺言書には様々な種類があります。書き方を間違ってしまうと無効になるケースもあります。
司法書士は遺言書作成、遺言執行者への就任や業務遂行、遺言書の検認申立書類作成など遺言に各種業務を行います。安心して有効な遺言書を遺すためには、司法書士に依頼する事をおすすめします。
司法書士に依頼すべきケース
相続に関して司法書士が対応できる業務は幅が広いです。その一方で弁護士よりも報酬が低めに設定されていることがほとんどです。相続人同士で争いが起きていない場合は、まず司法書士へ相談してみることをおすすめします。
相続に関しては各士業によって専門分野はことなりますが、司法書士は各種名義変更や書類作成、登記などの手続き業務を得意としています。そのため、スムーズに相続が進みそうな場合は司法書士に依頼することを検討してみてはいかがでしょうか。
相続|司法書士に依頼するメリット
司法書士は法務局での登記手続きや裁判所に提出する書類の作成ができる専門家であり、相続に関わる幅広い業務を行います。これには、相続人の戸籍調査、遺産分割協議書の作成、預貯金や不動産の名義変更などが含まれます。
司法書士は、税理士や弁護士など他の専門家とも連携しており、相続手続きに関するあらゆる相談を一箇所で解決できる体制を整えています。
ここでは相続の手続きを司法書士に依頼するメリットをご紹介します。
相続登記の専門家である
司法書士は登記申請書の作成はもちろん相続人調査から法務局への申請手続きまで、相続登記に関連する全ての作業を担います。
特に、複数の相続人がいる場合や過去に複数回の相続があった場合など相続関係が複雑になっている状況では戸籍謄本などの多数の書類が必要になります。これらの煩雑な作業を効率的に進めるためには司法書士に一任することがおすすめです。
相続人の確定、必要書類の取り寄せ、法務局への書類提出といった一連の手続きを司法書士がサポートしてくれるため相続登記に関する悩みや負担を大きく軽減することができます。
遺産分割協議にも対応できる
司法書士は相続に関する重要な文書である遺産分割協議書の作成も手掛けています。遺産分割協議書とは相続人が亡くなった人の遺産についてどのように分けるか合意した内容を正式な書面にまとめたものです。特に遺言書がない場合は相続人全員で不動産を含む遺産の分配について協議し、その結果を遺産分割協議書に記します。
遺産分割協議書には特定の形式は必須ではありませんが、内容には正確さと法的な有効性が求められます。遺産分割協議書に誤りがあると相続登記が行えないため、細心の注意を払って作成する必要があります。そのため、司法書士に依頼すると正確かつ法律的に有効な遺産分割協議書を作成することができ安心です。
遺言書の検認にも対応できる
司法書士は遺言書の検認にも対応しています。検認とは、家庭裁判所に申し立てて遺言書を保全する手続きで、被相続人が自筆証書遺言を残している場合に必要な手続きです。
検認を申し立てる際には、関係する戸籍謄本を集め検認申立書と一緒に提出する必要があります。
司法書士は戸籍謄本の収集と兼任申立書の作成を行うことができます。
相続人等が遺言書の検認を怠ると5万円以下の科料に処せられる場合もあります。
そのため、自筆証書遺言を見つけたら速やかに検認手続き行う必要があるため司法書士に依頼すると安心です。
相続人の対応できる幅が広い
相続人の中に下記に該当する場合は本人が遺産分割協議に参加することはできません。
- 認知症の人
- 行方不明者
- 未成年
この場合、家庭裁判所で代理人を選任する手続きなどが必要になります。
認知症の人には成年後見人の選任が必要になります。成年後見人が選任されていない場合には、家庭裁判所に後見開始の審判を申し立てた後成年後見人を選任してもらわなければなりません。
行方不明者には、不在者財産管理人を選任してもらう必要があります。もしくは失踪宣言の申し立てが必要になります。
未成年者は通常は親権者が代理人となりますが、親権者も一緒に相続人になっている場合には特別代理人を家庭裁判所に選任してもらう必要がありません。これは、未成年者と親権者が同じく相続人になっている場合は利益相反となるためです。
いずれにせよ家庭裁判所での手続きが必要となります。司法書士は家庭裁判所に提出する書類を作成することができます。相続を司法書士に頼むと、このような状況になってもスムーズに対応してくれることでしょう。
相続放棄の申述にも対応できる
被相続人が借金を残している場合には相続することで借金も引き継いでしまいます。また、被相続人との関係により相続には関わりたくないというケースも少なくありません。
このような場合には相続放棄の申述が必要になります。相続開始を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所で申述を行うと、相続人の権利を放棄することができるのです。
司法書士は相続放棄の申述だけでなく、3ヶ月の期間を延長する相続放棄の期間伸長の手続きも行うことができます。例えば、被相続人に借金があることを知らずに3ヶ月が過ぎてしまった場合にも相続放棄が認められる可能性があるのです。
相続放棄をしたい場合も司法書士に相談することをおすすめします。様々なケースに柔軟に対応してもらえることでしょう。
不動産売却や実務に詳しい
相続した不動産を売却する際にも、相続人名義で登記する必要があります。
司法書士は不動産名義変更手続きの専門家で、不動産売却の実務にも精通しているケースも多いです。相続登記だけでなく、相続した不動産の売却もサポートしています。司法書士に依頼することで相続不動産の現金化がスムーズに行うことができるでしょう。
遺産分割のために不動産を売却したい場合は、遺産分割協議書に「換価分割」の旨を明記する必要があります。また、不動産売却に伴い譲渡所得税の課税にも注意が必要になります。
相続不動産の売却は、不動産実務に詳しい司法書士に相談しながら進めると良いでしょう。
相続の専門家のネットワークがある
相続の手続きの中には特定の専門家にしか扱えない業務があります。いわゆる独占業務のことです。
たとえば、相続税の申告は税理士。遺産分割で紛争になっている場合は弁護士が専門分野です。1つの相続案件に様々な事象が含まれる場合もあります。それぞれの案件を各専門家に別々に依頼するのは時間も手間もかかります。
士業の横のつながりを持った司法書士に依頼した場合、他の専門家と連携して対応してもらうことも可能になります。相続に強い司法書士は他の相続の専門家とのネットワークを持っている可能性が高いです。そのため、ワンストップで相続手続きを代行してもらうことができるでしょう。
相続|司法書士に依頼する時の注意点
司法書士は相続手続きにおいて多くの業務を担います。しかし、全てのケースに対応できるわけではありません。
相続人間に争いがある場合は対応できない
司法書士は相続手続きを全ての相続人に対して公平に行わなければなりません。そのため相続人間の争いや交渉に介入して一方の利益を代弁することはできません。
例えば、ある相続人が自分に有利な遺産分割を求める場合で、司法書士は他の相続人を説得する役割を持ちません。
相続人間で意見の対立がある場合は、司法書士ではなく弁護士に相談すると良いでしょう。
相続税申告についての相談には対応できない
相続税の申告は専門知識を要するため司法書士ではなく税理士が担当します。相続により受け取る財産の総額が一定額を超えると相続税の申告が必要になります。その計算や申告には複雑なルールがあります。相続税に関するアドバイスや申告手続きが必要な場合は、専門の税理士に相談すると良いでしょう。
他の士業の独占業務を行えない
士業には独占業務が定められています。独占業務とはその資格を持つ人しか行えない業務のことを指します。例えば、自動車の名義変更や特定の許認可の承継には行政書士が、社会保険関連の手続きには社会保険労務士が、そして特許権や著作権の手続きには弁理士がそれぞれ対応します。司法書士はこれらの専門領域の業務を法律で規定された範囲内でのみ行うことができ、上述した具体的な業務を行うことはできません。
下記に主な相続についての各士業ができる業務内容についてまとめました。
弁護士 | 司法書士 | 税理士 | 行政書士 | |
---|---|---|---|---|
法定相続人調査 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ |
相続財産調査 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ |
相続放棄の申し立て | ⚪︎ | ※代理申請不可 | ✖️ | ✖️ |
遺言検認の申し立て | ⚪︎ | ※代理申請不可 | ✖️ | ✖️ |
遺産分割協議書の作成 | ⚪︎ | ※事案によって異なる | ※事案によって異なる | ※事案によって異なる |
相続税の申告 | ※税理士業務を通知した弁護士は可能 | ✖️ | ⚪︎ | ✖️ |
不動産の名義変更 | ※司法書士に任せるケースが多い | ⚪︎ | ✖️ | ✖️ |
預貯金の解約払い戻し | ⚪︎ | ⚪︎ | △ | ⚪︎ |
有価証券の名義変更 | ⚪︎ | ⚪︎ | △ | ⚪︎ |
自動車の名義変更 | ✖️ | ✖️ | ✖️ | ⚪︎ |
相続人間の紛争解決 | ⚪︎ | ※140万円以下の遺留分損害請求のみ可能 | ✖️ | ✖️ |
相続を司法書士に相談することのまとめ
相続は複雑な手続きや書類が多い手続きです。適切な専門家に相談することで適正に進めることが可能です。特に司法書士は相続登記をはじめとする様々な相続手続きに対応できる専門家です。相続の問題に直面したときは、一人で悩む前に、信頼できる司法書士に相談することをおすすめします。
正しい知識と経験を持った司法書士は、相続に関わるさまざまな問題を解決へと導き、皆さんの大切な財産を守るサポートをしてくれるでしょう。
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